プレゼント

 

「じゃぁ、また明日」

「うん、あ、そうだ
 ねぇ、何かほしいものある?」

不意に、だが明日の天気でも問うようなさりげなさでそういった淳に達哉は振り返る。

「はい?」

一体何を言い出すのだと怪訝そうに見つめる達哉に淳はにっこり笑った。

「もうすぐ誕生日じゃない?」

達哉はそう言われて初めて自分の誕生日が近いことを思い出した。

「…忘れてた」

「え?」

軽く驚いたように目を見開いて自分を見上げる淳に達哉は苦笑した。

「餓鬼の時みたいにもう家族や友達に祝って貰うこともないし
 すっかり忘れていた」

「え…」

「何だよ
 その意外そうな顔は」

「だって僕と違って達哉は毎年皆に祝って貰えてると思ってた
 克哉さんなんか張り切ってケーキ作りそうだし
 女の子とかにプレゼント一杯貰ってたりするんだって…」

「…あぁ、兄さんが毎年確かにケーキ押しつけてきて誕生日だったと思い出すんだよ
 学校の連中には言ったことないから大概のヤツは知らないしな」

正直、今の家庭環境でもう誕生日など祝ってほしいと思わない。さほど親しくない「友達」からのプレゼントも押しつけがましくてうんざりする。ましてや顔すら見た覚えもない女の子からのプレゼントなど迷惑なだけだ。その見返りを与えてやることは出来ないのだから。

けれど。

達哉は黙って自分を見上げる淳を見つめる。

「じゃぁ…迷惑になっちゃうのかな」

小さくつぶやいて淳は少し寂しそうに笑うと達哉から目を反らした。
達哉はそれを見てため息をつく。

「勘違いするな」

「何?」

「俺はどうでもいい奴らから勝手に祝ったりされるのはいやだけどな
 そうじゃない相手なら嬉しいんだけど」

「え?」

「お前が俺の誕生日を祝ってくれるのならそれは嬉しい」

ぼそりと素っ気なく達哉はそう言った。俯きかけていた淳が思わず顔を上げると、ふいっと達哉はそっぽを向いた。だがそれが照れ隠しだと気づいて淳は思わず微笑む。

「…じゃぁ改めて聞くね
 何が欲しい?」

嬉しそうに期待に満ちた目でみる淳に達哉は、すこし戸惑ったように笑った。

 

 欲しいモノ。

 淳から与えられるモノ。

 ならば答えは決まってる。

 だけど、それを口にすることは出来ない。

 きっと淳が戸惑うから。

 だから。

 

「お前がくれる物なら何でもいい」

「え〜
 何それ…」

淳は不服そうに上目遣いで達哉を睨んだ。そういう答えは一番困るのだ。あげたいモノがあるならこんな風に聞いたりしない。第一達哉が喜ぶものがあげたい。だから淳は敢えて尋ねたと言うのに。

「…好きな相手から貰えるなら何だって嬉しいだろ」

「え?」

風に攫われて消え入りそうな小さな声で、だが確かに聞こえた達哉の言葉に淳は目を見開く。今度はそっぽを向くことなく達哉は淳を見つめていた。

 

 達哉の喜ぶモノ

 自分に出来るならどんなモノでも叶えてあげたい。

 それは…何?

 自分がそれをあげたら達哉は嬉しいの?

 達哉が嬉しいなら自分も嬉しい。

 

「達哉」

不意に淳が達哉の袖を引っ張る。何気なくそれにつられて僅かにかがんだ達哉の耳元に淳は顔を近づけた。

「             」

達哉が淳の言葉に驚いたように、珍しく呆けたような表情をしたのに、淳はにっこり笑った。

「じゃぁ誕生日に
 ケーキ用意して待ってるから」

するりと達哉から離れ、淳は軽く手を振ると駆けるように去っていった。
達哉は呆然とその姿を見送る。

「マジかよ?」

淳がさっき言った言葉。


それは達哉が望んだもの。

ただ口に出してそれを望むのが気が引けていた。

だけど、

それは淳に届いて。

彼はそれを笑顔で叶えようと言ってくれた。

 


達哉はもう姿の見えない淳が去った方を見つめて知らず微笑みを浮かべた。

生まれて初めて自分の誕生日が待ち遠しく、嬉しいと思った。

     

 

END