傍にいたい

 

「ずっとこのまま君といれればいいのに」

「何だよそれ」

小さくつぶやいた淳の言葉に達哉は僅かに眉根を寄せて淳を睨むように見つめた。淳は微かに笑みを浮かべて達哉を見上げた。

「俺の傍にずっといるって言ったのはお前だろ」

「うん」

「じゃぁなんでそんなこと言うんだ」

「………」

ふっと淳は達哉から目を逸らし、空を見上げる。不意にそのまま淳が消えてしまうそうな気がして達哉は思わず淳を抱き締めた。淳は抗うことなく達哉の胸に顔を埋める。

「このまま…こんな風に君に触れられる所にいたい」

「だからいるじゃないか」

「うん…そうだね」

「何が不安だ?」

「わからない」

達哉は強く、強く淳を抱きしめる。まるでそうしなければ淳が消えてしまうのではないかという不安にかられて。

   あぁ…失いたくないな 

淳はそっと達哉の背に腕を回して、抱き締め返す。その制服越しに伝わる体温を逃さないように。達哉のその温もりを、カタチを忘れないように。

 

ずっとずっと傍にいたかった。
でもきっとそれは叶わない。
諦めでもなく、それは確かな予感。

 

だけど思う。この手にその温もりを感じる術が失われても。二度とこの目にその姿を映すことが出来なくなっても。記憶の中から君が消えても。
今君と僕が共にいた事は真実だから。失われても消えなしないから。

 

だから。

 

「達哉」

「ん?」

「例えこうして触れ合えなくなってもどうか悲しまないでね」

「淳?」

「僕は君が好きだから
 それだけはもう変わらないから」

「淳?」

訳が分らない事をいう淳を問いつめようとして、だが達哉は何も言えなかった。優しく自分を見つめる淳の笑顔がひどく切なかったから。だからただ決して離すことはないというように淳を抱き締めた。

 


こうして触れ合える時間が僅かしかないことはお互い判っていたのかもしれない。

 

ただ信じたくはなかった。

 

一体これは何の為の咎だというのか。

 

一緒にいたいと言うことはそんなにいけないことでしたか?

 

ねぇ…神様。

   

 

END