生きること死ぬこと

 

今僕が死んでもきっと誰も悲しまないだろう。

 

僕を知っている人が少しだけ感傷に浸るかもしれない。
それは新聞の訃報欄に少し知る著名人が死んだのを知ったときのような一瞬の感傷で。

多分明日には忘れているだろう。

僕という存在はそうして跡形もなく消えるのだ。

それはとても幸せなのかもしれない。

誰も悲しませずに逝けるなら、なんて良いことだろう。

愛されれば、いつか誰かを悲しませるのだから。

だから僕は幸福だったんだ。

 

君に会うまでは。

君を思い出すまでは。

 


君はなんて残酷なんだろう。


あぁ、君がいたから
僕はもうこの命を粗末にする事は出来ない。

命を差し出して償うことも出来ない。

生きて、生きて、生きて…死ぬまで。

 


あぁそれなのに。

君は僕を、僕たちを置いて逝くんだね。

思い出すことがなければ悲しくなど無かったのに。

 

あぁ僕には君の気持ちが分るよ。

だから君のことは思い出さない。

 

ねぇ…それでも。

僕の鼓動が止まる日まで

 

きっと君と共に生きていくのだろう

 

END