Happy Day

 

「………はぁ」

達哉は軽くため息をつく。
もうじき淳の誕生日。だから何かプレゼントを贈ろうと街へ出来てきたのだが。
世の中の店はヴァレンタン商戦まっただ中。
どこもかしこも女の子で賑わっている。最近ではチョコだけ贈るなんてことはせず、本命には他の品物をメインにチョコを添えてやるらしい。
だから男性にあげるプレゼントをおいてあるところに群がる女性の群れに達哉は近付くことが出来ない。
ヴァレンタインデーと同じ日が誕生日の淳を少し恨めしく思ったが、それは淳のせいではないから八つ当たりもいいところだ。

デパートの売り場を遠巻きに眺めながらぼうっと立っているとちらちら女の子達が達哉を見ていく。
そこいらのアイドルより格好いい少年が立っていれば嫌でも目立つ。
達哉がナルシスト的な性格なら、女性にもてるのは快感だったろうが、あいにくそうではないのでキャァキャァ言われるのは苦痛でしかない。
達哉はいたたまれなくなって、とりあえずその場を離れた。
そして女性があまりいない売り場を探してあてどなくさまよう。

ふと気付けば非常に場違いな所に来ているのに気付いた。
だが、普段女の子がたくさんいるだろう「その売り場」に今日はなぜか殆ど人が居なかった。

「何かお探しですか?」

あわてて去ろうとする達哉の背ににこやかな店員の声。
普段なら黙って立ち去れるのに、よほど人混みの毒気に当てられていたのか達哉はそこから動けなかった。
笑顔で達哉を見る店員。
達哉は何か応えなければいけないと意味もなく焦燥感を募らせた。
そしてふと手近にあった「商品」をむんずと掴む。

「すいません…これを下さい
 プレゼント仕様で…」

「はい、かしこまりました」

店員は達哉から品物を受け取ると綺麗にラッピングして渡してくれた。
達哉はそれをひったくるようにしてその場から立ち去ったのだった。


「淳…誕生日おめでとう…
 これ」

「わぁ…ありがとう…
 開けていい」

淳は達哉から渡されたピンクの大きな包みを嬉しそうに受け取った。
さっそく丁寧に包みを解いて中身を出す。

「わぁ…かわいいな」

中に入っていたのは大きな茶色い犬のぬいぐるみ。

「何か達哉みたい」

「…は?」

「達哉…って何となく大型犬のイメージだと思うんだ
 これ達哉って名前つけていいかな?」

「……あ、あぁ」

「わ〜い
 今度舞耶姉さん達にも見せようっと」

「…………」

無邪気に喜ぶ淳に達哉は、ただ引きつった笑いを浮かべた。
うっかり迷い込んだファンシーグッズの売り場。
とっさに掴んだヌイグルミ。
何だかちっとも真剣に選んでやってない気がするけれど。
しかし結果オーライ。

「あ、達哉そうだコレあげる」

「ん?」

「ヴァレンタインのチョコ」

さりげなく淳は可愛いラッピングのチョコを達哉に手渡す。

「淳…お前これ自分で買ったのか?」

「もちろん…何で?」

「いや…売り場女だらけじゃ…」

「うん…けど達哉にあげたかったから
 手作りする時間がなかったから既製品で悪いけど」

「淳」

不意に達哉は淳を抱きしめた。

「達哉?」

「ありがと…
 来年は…俺頑張る…から」

「?」

来年は恥ずかしがらずちゃんとプレゼントを選んでやろう。
達哉は淳を抱きしめながらそう誓った。
淳は、達哉の行動がよく判らなかったが、抱きしめる腕がただ嬉しく思った。

 

HAPPY BIRTHDAY JYUN

HAPPY VALENTINE’S DAY !!

END